予防医学には、一次予防、二次予防、三次予防という考え方があります。

                        定義
一次予防生活習慣を見直し改善することで病気にならないようにすること 
二次予防病気を早期に発見し、治療や保健指導を行うことで重症化を防ぐこと
三次予防治療過程での保健指導やリハビリテーションにより社会復帰を促したり、再発を防止すること

健康診断は二次予防とみなされていますが、本当にそれでいいのでしょうか。

健康経営を推進していくには、個人個人の健診結果を解析して、個別具体的な保健指導プログラムを作り一次予防につなげていくことが何より大切だと考えています。

血圧

診察室や健診ルームでの測定結果に基づく判定基準は、

診察室血圧の判定基準
診察室や健診ルームで測定された血圧の判定基準

となっていますが、血圧は一日の中で、大きく変動します。正常血圧の人でも、階段をかけ上がった時、重量物を持ち上げた時、恐怖に震えている時などは、収縮期血圧は180mmHg、時には200mmHgを超えます。

130mmHgを超えたら、即血圧高めとは判定されません。不安を煽る情報により不安に駆られると血圧は上昇しますので、そのような情報には耳を貸さないようにしましょう。下図は、一日の血圧の変動を表しています。

一日の血圧変動(例)
一日の血圧変動(例)

健診で血圧が高めと診断された方は、家庭で血圧を測りましょう。

家庭血圧の測り方
・測定部位:上腕で測りましょう
・測定時刻:できれば朝と夜に1回ずつ図りましょう
・朝の測定:朝の方が夜よりも血圧は通常高くなります。
      起床後1時間以内に、服薬前、朝食前、排尿後測りましょう
      (通常、排尿で血圧は下がります)。
      座位でリラックスし2~3分経って測りましょう。
・夜の測定:就寝前、リラックスし2~3分経って測りましょう。
・記録と評価:測定結果は、時刻と心拍数も一緒に記録しましょう。
       家庭血圧は朝と夜の平均値で評価します。

日本で行われた血圧と脳卒中発生率の相関を調査した結果をグラフにしてみました。かなり長期に渡り大規模に行われています。

血圧と脳卒中発生率の相関関係調査結果(f福岡県久山町)
血圧と脳卒中発生率の相関関係調査結果(f福岡県久山町)

収縮期血圧140未満になるようにした方がいいです。それでは、日常生活で血圧を下げるポイントを説明します。

夜の方が、血圧が高くなっているようでしたら、仕事上のストレスが溜まっている可能性があります。そのような場合、数日、測定結果をメモし、産業医に相談するよう声掛けをしています。面談の上、必要に応じ会社に就業上の注意点をお願いしています。
ご自身ではリラクゼーションを心がけましょう。

食事内容を教えていただき、塩分や脂質の摂取量を減らすことで血圧が下がる方も結構いらっしゃいます。睡眠時無呼吸も血圧を上昇させます。家族から最近いびきがひどいと言われたり、朝、頭が痛い、のどがカラカラと言った自覚症状がある場合は睡眠時無呼吸の可能性があるので、面談の上、睡眠時無呼吸の検査を受けるよう勧めています。

脂質 コレステロール

血液検査では下記の4種類が測定されています

 正常範囲 mg/dl 
総コレステロール220未満⇦ 無視していいです
LDLコレステロール140未満悪玉コレステロール
HDLコレステロール40以上善玉コレステロール
中性脂肪150未満 

総コレステロール = LDLコレステロール + HDLコレステロール + 中性脂肪/5 です。

どちらの方が健康的?

例1例2
LDLコレステロール120120
HDLコレステロール 45 90
中性脂肪       125 125
総コレステロール190235

例1は、LDL、HDL、中性脂肪、総コレステロールすべて正常範囲ですが、

例2は、LDL、HDL、中性脂肪は正常範囲ですが、総コレステロールが正常範囲を超えています。

(答え) 例2の方が健康的

LDLコレステロールは動脈硬化を促進。逆にHDLコレステロールは動脈硬化を抑制。LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪が正常範囲にあり、かつ

(LDLコレステロール)/(HDLコレステロール) ≦ 2.5 より好ましくは≦2.0 

であれば、動脈硬化のブレーキ役であるHDLコレステロールが、アクセル役であるLDLコレステロールを十分抑えることができています。

例1は、120/45 = 2.7  例2は120/90 = 1.3

運動をよくする方のHDLコレステロールは80を超えていることが結構あります。

欧米で、高コレステロールの判定基準が、総コレステロール240以上であった時、日本でどういうわけか220以上に引き下げられていました。

LDLコレステロール、中性脂肪を下げ、HDLコレステロールを上げるため

・飽和脂肪酸の摂り過ぎに注意:肉の脂身、ラード(豚脂)やヘッド(牛脂)で揚げた揚げ物

・不飽和脂肪酸EPA、DHAを摂りましょう:さんまやさば等の青魚はEPA、DHAが豊富。

・トランス脂肪酸は動脈硬化を促進します。摂り過ぎ注意:マーガリンやショートニング

・有酸素運動をしましょう:特にHDLコレステロールを上げる効果があります

・バランスのよい食事を心がけましょう:野菜不足になっていませんか。野菜に含まれるビタミンやミネラルは脂肪燃焼に欠かせません

・炭水化物の摂り過ぎに注意:摂り過ぎた炭水化物は中性脂肪になります。中性脂肪が上がるとHDLコレステロールが下がります

血糖 HbA1c

東京都医師会のパンフレットを見ると、

HbA1c (NGSP) 6.5% かつ又は空腹時血糖値が126mg/dLを超えた場合の
『受診勧奨』は、『医療機関(かかりつけ医)への受診勧奨』を意味します。⇒ただちに糖尿病専門医療機関に紹介するということを意味し ていません。』

最近、HbA1c (NGSP) 5.5%を超えると、即、要精密検査と判定してくる健診実施機関があり、対応に困っています。

会社が安全配慮義務を果たすため、個々の健康診断の結果を把握することは、ある程度認められています。ただし、健診結果は要配慮個人情報のため、安全配慮義務の責任者がどこまで把握していいかは明文化しておく必要があります。再検査の結果を、安全配慮義務の責任者が確認することは可能ですが、精密検査の結果をみることはできません。こういう基礎的なことをわかっておらず、要精密検査と判定して、自分たちの医療機関を受診させようとする健診実施機関をみかけるとやるせない気持ちになります。

血糖も生活習慣を見直すことで、十分改善することができます。

血糖値を上げるのは

ご飯、うどん、そば、パスタ、パン等の炭水化物豊富な食材や甘い物です。炭水化物、砂糖が消化酵素でブドウ糖まで分解され、小腸で吸収され、血管中に入ります。

血液中のブドウ糖=血糖

です。空腹時に炭水化物や甘い物を食べると小腸からの吸収が良く、血糖値が急上昇してしまいます。膵臓からインスリンが分泌され、血糖値を下げようとしますが、急上昇した血糖値を下げるため、大量のインスリンを分泌しなければならず、そのような状態が続くとやがて膵臓は疲れてしまいインスリンを素早く分泌できなくなり糖尿病になってしまいます。大量に分泌されたインスリンは、糖を脂肪にかえ、その脂肪は内臓に蓄積していきます。内臓脂肪はインスリンの効きを悪くするため、インスリンをさらに分泌しなければならなくなり悪循環に陥ってしまいます。炭水化物の早食い、摂り過ぎに注意しましょう。

まずは、食物繊維豊富な野菜類、タンパク質豊富な魚等から食べましょう。食物繊維やタンパク質は血糖値を上げません。炭水化物の吸収を抑えてくれます。このような順番で摂取することにより、トータルで食べたものが変わらなくても、HbA1cを0.5ほど下げることができるとの
研究結果を京都大学がかつて出しています。

(注) 食物繊維はブドウ糖が結合してできていて、炭水化物の一種ですが、人間の消化酵素ではブドウ糖間の結合を切ることができないので、血糖値を上げません。

血糖値を下げるには、軽めの有酸素運動+軽めの筋トレ(スクワット等)も有効です。

有酸素運動+筋トレは、血液中のブドウ糖を筋肉に取り込み、エネルギーに換えることを促進し、血糖値を下げます。

ストレスもインスリンの効きを悪くし、血糖値を上げます。ストレス発散も有効です。

HbA1c 8以上が数年続き、何度も受診するように言ったのですが、なかなか応じない従業員がいたため、人事より頼まれて追記した内容が以下になります。

糖尿病を放置すると

細い血管がまず、障害されます。

糖尿病三大合併症 … 網膜症、腎症、神経症

網膜症
網膜を栄養している血管が脆くなり破れます。破れた血管にはレーザーで焼く治療が施されますが、糖尿病が改善しないとやがて失明します。

腎症
腎臓は細い血管の集まりです。血管が脆くなり破れていくと老廃物を尿として排出できなくなり、透析を受けなければならなくなります。

神経症 
神経は伴走している細い血管から栄養を受けていますが、この栄養血管が脆くなり破れると、神経は機能しなくなります。腰椎からつま先に延びる長い神経がまず障害され、足の感覚が麻痺します。足に火が当たっていても気が付かないということになりかねません。

  やがて、太い血管も障害され、動脈硬化が進行し、心疾患、脳血管疾患を発症します。

肝機能

正常範囲は AST、ALTがおおよそ40U/L以下

      γGTPが  おおよそ80U/L以下

です。

ALTが正常範囲を超え、ASTの2倍近くになっている場合、脂肪肝が疑われます。

LDLコレステロール 140以上、中性脂肪 150以上の状態が続くと脂肪肝になってしまいます。脂肪肝とは、肝臓の細胞に脂肪が蓄積し、肝機能障害が起きている病態です。

テレワーク導入により体を動かす機会が減ったためか、ALT≒AST×2になっている方が散見されます。前回の健診と比較して、体重が1~2㎏増えていませんか。LDLコレステロール、中性脂肪が増えていませんか。

軽めの有酸素運動、軽めの筋トレ(スクワット等)等をちょっと継続するだけで改善します。

腎機能

尿素窒素(BUN)の正常範囲は20mg/dl以下です。

尿素窒素は、タンパク質の老廃物である尿素に含まれる窒素成分です。腎臓の糸球体でろ過され尿中に排泄されますが、腎機能が低下するとろ過しきれずに血液中に溜まるため、血液中の尿素窒素の値が高くなります。
ただし、タンパク質の摂り過ぎ、消化管からの出血、脱水、発熱、甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍などでも数値が上昇するので参考程度です。

クレアチニン(Cre)の正常範囲は一応男性1.1mg/dl、女性0.8mg/dl以下ですが、個人差が大きいです。

クレアチンリン酸は筋肉が運動するためのエネルギー源で、この老廃物がクレアチニンです。腎臓の糸球体でろ過され尿中に排泄されますが、腎臓の機能が低下するとろ過しきれず、血清クレアチニンの値は高くなります。ただし、筋肉量が多いと、腎機能が正常でも正常範囲を超える可能性が有ります。脱水状態でも上昇します。

マスクをしていると喉が渇かず、知らず知らずに脱水状態になっている恐れがあります。

トイレに行く回数が減っていませんか。

筋トレをすると一時クレアチニンは上昇します。それなら安静にしているほうが腎臓にいいのかというとそうではありません。適度な運動は腎機能によい影響を与えることがわかってきています。